指折り数えて何番目に面白いかはわからないが、とにかく他にない漫画『バクマン。』が好きだ。漫画家として努力する様を追体験している気分になれて、やる気が湧いてくる。ちょっとした気持ち悪さも、作品を押し上げない良いつっかえになっていると思う。
連載当時から実写化は話題になっていた。Amazon Primeで配信されていたので、いよいよ観てみた。
結論から言って、映画としての出来はいいけれど、僕は面白いと思わなかった。
2時間にまとめる難しさ
原作の漫画は長編だから、どこかの区切りを映画としてのゴールに設定しなければならない。とすれば、当然連載を勝ち取るか、人気投票で1位になる瞬間で終わりにするのが妥当だろう。原作通りに進行すると、とても時間が足りない。
この映画では、親が漫画家に反対したくだりを削った。漫画を描き始めるまでの時間が短く、入賞するまで時間をしっかり使っている。また、亜豆美保以外の女性を排除することでラブコメ要素を極力なくし、できるだけ間を詰めている。
かなり思い切った決断だと思うが、結果的に成功だったと思う。漫画であれば時間をかけて物語の変遷を描けるが、映画では見どころを絞らないといけない。
原作を読めばわかるが、とても台詞量が多い。特に打ち合わせ部分はロジックに偏っており、映画でそれを再現するのは悪手である。
「漫画を描く」「打ち合わせ」「人気投票の結果を待つ」という、言ってしまえば華やかさに欠けるシーンをどれだけ濃縮させて表現するか。この映画で検討された課題なのではないか。
これを見事に解決した手法については、別項にて後述。
「漫画を描く」の表現の正解
言ってしまえば地味な絵面である「漫画を描く」時間の経過をどのように表現するのか。
CGやプロジェクションマッピングをふんだんに使って、漫画が流れていく。ペンを持った真城と高木が新妻とアクションを繰り広げる。簡単に言うと、そんな感じだった。
原作は小細工を使った(良い意味で)陰湿な戦いが描かれているのに対して、映画では激しい動きを伴った熱血な戦い。
これが僕の好みではなかった。ただ、おそらくこの映画が成功と言われる理由なのだろう。キャストに人気の俳優を使って、華々しく活躍する様は必要だ。これでいいと思う。
随所にちりばめられたジャンプの魅力とフィクション
漫画と違って、映画は現実に近い。題材も元々現実に近いので、なおのことリアリティが増す。
一番わかりやすいのは、真城と高木の描いた漫画がジャンプの巻頭カラーになって渡されるシーン。ああいった小道具をリアルに感じられるのは、実写映画ならではの魅力だ。本物のジャンプと比べて、少し安っぽさは感じられたが。
漫画家仲間と集まって、ジャンプ談義をするシーンは、実在する連載漫画が元になっている。それだけでなく、今作の終わり方は漫画『SLAM DUNK』の終わりをリスペクトしている。
ジャンプを愛してやまない人が聞く分には、面白いのかもしれない。
映画内の編集部はかなり雑多なのだが、どうやら実際の編集部も同じらしい。しかし、週間ランキングを発表する時に貼り出しなどはせず、社内メールで済まされるそうだ。
これは映画を盛り上げるためのフィクションで、わかりやすく映画の見どころを作っている。
今やインクよりもペンタブで漫画を描く人も多いだろうが、そういった時代の流れも無粋だ。フィクションと呼ぶのもためらわれる。
ちなみに、作中に登場する原稿は、原作漫画の作画を担当している小畑健先生の描き下ろし。
上映時間の限界とキャラ改変
散々述べていることだが、上映時間には限りがある。無論、キャラクター性を掘り下げるのにも時間が足りない。
つまり、今作においてはキャラクターの一側面しか描かれないのだ。
真城と高木の配役が逆なのではないか。
これは公開前の発表から言われていた意見だ。これを僕は後から知ったのだが、映画を視聴して同じ意見を持った。
これについては深く触れないとして、気になった点が2つ。
2人の身長差が逆。
真城がクールすぎる。
亜豆が微妙。……全体的に、原作の魅力を表現できていないように感じる。
平丸と新妻エイジの性格がただ悪いだけに描かれている。
彼らの見せ所は原作後半に多いので、序盤の一部を抽出すれば、アウトローに見えなくもない。
逆に、原作では回を追うごとに屑と化していく中井はちょっとキモい程度で済んでいる。
服部はまったく違う雰囲気だが、名前の元ネタと山田孝之氏はかなりのそっくり。そちらを重視して配役を決めたのだろうか。
まとめ
世間の評価は上々だった。実写化の成功例のひとつに挙げられている。
僕も実写化の成功例だとは思うが、面白かったとは思わない。原作の『バクマン。』の知らない人が見れば、きっと面白いと口を揃えて言うのだろう(原作好きの人でも、面白いと言った人は結構いるようだ)。
面白い映画は何度も観たくなるが、この映画はそうではなかった。